
気候保護と大気質
水素社会とは何か、実現可能か?日本の立ち位置
日本は2050年に向けてカーボンニュートラルという重大な目標を掲げています。30年後に排出量実質ゼロを達成するために、環境省は「水素社会」構想を打ち出しました。
ここで、水素社会とはいったい何なのか、そして水素社会が日本の目標達成にどのように役立つのでしょうか?
同省によると、それは水素をあらゆる業種で共通のエネルギー源として利用する社会のことです。しかし、より広い背景を理解するためには、この野心的な目標を支える技術、つまり燃料電池について、基本的な理解を深めておくことが有効です。
燃料電池とは?その仕組みは?
水素燃料電池は、水素の化学エネルギーを電気に変換します。電池と同じような働きをしますが、劣化や充電の必要がなく、酸素と水素が常に供給されている状態であれば電気を発生させることができます。副産物として発生するのは、水と熱のみです。水素燃料は、天然ガス、バイオマス、風力、太陽光など、さまざまなエネルギー源から製造することができます。
燃料電池は、燃焼を利用した動力よりもはるかに高い効率を持ちます。例えば、米国エネルギー省によると、現在の自動車に搭載されている一般的なガソリンエンジンでは、化学エネルギーを動力に変換する効率は20%未満です。燃料電池を使用した車両では同効率は約60%を達成し、これは50%以上の燃費低減に相当します。
燃料電池の用途
燃料電池は、他にもさまざまな用途に適しています。すでに、倉庫でトラックやフォークリフト、パレットジャックの動力源として水素燃料電池を採用している企業もあります。複数の大都市では、水素を燃料とするバスの実験が始まっており、ドイツでは燃料電池電車も登場しています。
さらに、燃料電池は定置用電源としても最適です。
米国エネルギー省の報告書には、「燃料電池は、一次電源、バックアップ電源、熱電併給(CHP)などの定置型電源として、さまざまな用途に使用できる」との記載があります。さらに、同報告書は、「定置用燃料電池は、ノートパソコンから一戸建て住宅、さらにはより大きなニーズ(200kW以上)にも対応できるサイズであるため、小売、データセンター、住宅、通信など、その他の幅広い市場において理にかなっている」と記述しています。
日本の水素活動
日本は、水素を基盤とする社会として主要な地位を確立するため、2020年に世界最大級の10メガワット級水素製造プラントを建設するなど、複数のマイルストーンを達成しています。また、同年には世界初の液化水素運搬船「すいそ ふろんてぃあ」を建造しました。これによって、世界最大規模の液体水素輸送を実現し、オーストラリアから日本への供給ルートを確立しました。
加えて、日本は地域資源を活用したサプライチェーン構築のため、水素の製造、貯蔵、輸送、供給、利用について、それぞれ異なる方法を特定する一連の国内パイロットプログラムに取り組み、2021年に完了しました。
現在、日本の自動車用水素ステーションの数は160基で世界一であり、さらに2030年には1,600基まで増やすことを目指しています。また、世界二位の中国でもその数は大きく伸びており、100基以上のステーションが稼動しています。現在、世界では33カ国で水素ステーションが稼動しています。
日本の政策の進展と進捗
日本は2030年までに温室効果ガスを2013年比で46%削減することを約束し、総発電量の少なくとも1%を水素とアンモニア源でまかなうことを目標としています。
政府の資金供給の優先順位は、これに追従しようとしています。2021年には2兆円のグリーンイノベーション基金が設立され、水素関連プロジェクトへの出資が約束されました。日本の2022年度予算案でも、再生可能エネルギーに1,000億円が指定されました。
調査会社Lexologyの報告書には、日本は水素インフラの整備を強力に推進しているものの、政府にはまだ多くの行動が必要との記述があります。
続けて、「日本は、MCH(液体メチルシクロヘキサン)、アンモニア、液体水素など様々な形態で水素を輸送・貯蔵するための研究・実証実験に資金を提供することで広い網を張ってきたが、まだ好ましい形態に落ち着いていない 」としています。さらに、同社は、明確な見通しが立つまで、産業界はインフラへの大規模投資に慎重であろうと指摘しています。
また、EUの発電源証明のような水素のカーボンフットプリントに関する認証基準が日本には存在しません。これらの証明書は、消費者が環境に優しいエネルギー源を選択できるように、エネルギーの種類を表示するものです。このような動きは、業界での動きを加速させるサプライヤーのインセンティブになり得ます。
それでも、2050年までに再生可能な電力で運営することを企業が約束する世界的な取り組み「RE100」には、日本企業50社が参加しています。その一環として、電力のトラッキング証明書が求められています。
このたび、三菱ふそうはオリックス株式会社と業務提携し、環境に配慮した電力小売事業を、国内初の量産型電気小型トラックeCanterとして法人のお客さまに導入することとなりました。RE100の目標と並行して、オリックスの電力メニューに掲載される予定です。
世界の水素エネルギーイニシアチブ
国の水素戦略を最初に策定したのは日本ですが、他国も前に進んでいます。
中国は2016年に水素ロードマップを発表し、水素を未来の6つの産業の一つと認識しました。国家戦略は実施されていませんが、16の省・市で地方戦略が取り上げられています。
欧州連合は、欧州グリーンディールの達成に水素が不可欠と見ています。2030年までに40ギガワットの再生可能水素電解槽容量を導入する目標が設定されていますが、世界経済フォーラムによると、計画は遅れをとっているということです。
一方、米国では2021年に、クリーンな水素技術を後押しするために95億ドルを充てる法案が可決されました。また、同国は、エネルギー省が掲げる、「10年間でクリーン水素のコストを80%削減し、1キログラムあたり1ドルにする」ことで、2050年までに炭素排出実質ゼロを目指す「水素ショット(エネルギー・アースショット・イニチアチブの一部)」プログラムを開始しました。
最近、南アフリカは、2050年の炭素排出量実質ゼロという目標に向け、エネルギーの利害関係者の足並みをそろえることを目的に水素社会ロードマップを発表しました。このロードマップには、グリーン水素とアンモニアの輸出市場の開拓、より環境に優しい電力セクターの構築、主に水素による重輸送の、および主にアンモニアによる産業の脱炭素化、水素のローカルサプライチェーンの構築という5つの重要な目標が掲げられています。
日本での水素社会の実現
日本が目標を達成するためには、政策やインフラの根本的な転換とともに、多大な投資とイノベーションが不可欠です。現在、持続可能な環境・エネルギーに対する数多くの課題を解決するために、水素社会のビジョンが必要不可欠なものとなっています。
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コメント
Marcus Rowe
2022年06月17日 at 09:35Interesting post was good summary about hydrogen energy sources and info on Japanese initiatives
Marcus
2022年06月17日 at 09:36Interesting post was good summary about hydrogen energy sources and info on Japanese initiatives